昨年から、私的に行なっていた翻訳作業に力を入れるようになりました。
といっても、本業という意味での仕事というわけではありません。もっと多くの人に見られるような翻訳文が増えただけです。例えば、Judge Wiki という英語主体のWikiがありますが、その中の記事を日本語にしたり、意味を汲み取って日本語に起こしたりする、ということをやるようになりました。もちろん、mtg-jp内での記事監修もそのうちの一つです。

その中で、翻訳という作業について深く知ろうと思い、幾つかの本に手を伸ばしてみました。ただ、一般的な翻訳に関しては余り参考になりません。なぜなら、私の翻訳する文章は主にマジックに関するもので、それは「ごく一般的な」英語では無いことが多いからです。例えば、"trigger" という単語を見た場合に、一般的には「引き金(をひく)」といったことから、その文章は銃か何かを打つ場面を想像することになります。……が、マジックではご存知の通り、『誘発(する)』なので、何かの誘発型能力を頭に思いつかなくてはいけません。

そんななか、誤った訳文、いわゆる「誤訳」についての解説があり、これがなかなか面白かったので自分なりに理解したことを書いておこうと思います。いつものルール談義ではなく、毛色の違う話ではありますが、少しお付き合い下さい。


*正確な訳とは?

ある文を和訳した時に、その文が正確な訳である、とはどういうものを指すのでしょうか?
文としては成立しているが、解釈ができない文だった場合、それは正確な訳文でしょうか?

「あなたの維持の初めに、目標相手は、彼または彼女の図書館のトップ3枚のカードを明らかにします、戦場上にそれらの中からの創造物カードを置いてもよく、次に、彼または彼女の墓地に残りを入れる。」(エキサイト翻訳)

上の文章は限りなく正確です。ただし解釈はできないものです。つまり、正確な訳文とは、「文として成立し、一読してその原文の意味することが理解できる文。」であるべきであると言えます。

 
*直訳と意訳

訳を行う時にしばしば直訳か意訳かで迷うことがあります。直訳は逐語的であるのに対し、意訳は文全体、もしくは段落やもっと大きな固まりを見て行うものです。大抵は直訳しないと意味が取れないので、まずは直訳を行うことになります。その後、文章の調子を整えるために推敲し、時には意訳を行うこともあります。

 
*訳出可能性

訳ができるかどうか、ということがひとつの指標になります。

・直訳できて意味も通じる。

 この場合は原文の意味をとるというよりも、日本語的に読みやすさを優先することになります。英語力というよりかは国語的な能力が問われることになります。関係代名詞でむりやり文を繋げているとか、やけに長い文節を主語にしている文は、文を2つに切ったり、主語を最後にするなどの「国語的な」編集を行うほうがよいでしょう。

・直訳できるが意味が通じない。

 一般的でない意味に取らざるをえない単語や、カード・テキスト的な意味合いをもった文は直訳しても意味が通じません。この場合は意訳したり、テンプレート的な訳を参照することになります。

・直訳できない。

 造語や単語改変が行われていて直訳できない、もしくはそのものズバリの単語がないものを指します。タイトルとして使われることも多いです。この場合はカタカナにしたり、造語ならその意味合いを取って似た日本語を探すことになります。同音異義語はこんなときに活躍します。

 実際の例を挙げましょう。タイトルとして "Egg-cellent Additions" とあります。どんな訳を当てればよいでしょうか? 色々考えられると思われますが、大切な点として、これだけでは訳出できず、タイトル以降の内容を考えて訳を当てた方がよい、ということです。

・言語的問題で訳出不可能。

 逆さ言葉やオノマトペといった言語特有のものは訳出不可能です。その場合は日本語において意味を考えて「あてる」ことが必要です。……まさしく意訳ですね。また、単語的な意味合いでその通りの訳出ができないこともあります。例えばRTRのイゼットのキーワード「超過」は、注釈文を直訳しても意味が取れません。なので、注釈文に超過変更後のテキスト全体を書く、ということを行ったのだと考えられます。


*誤訳と悪訳

これまでは正確な訳文について、直訳と意訳という点から説明を行いました。
では、正確でない訳文、つまり誤訳について書きます。

そもそもの誤訳とは、原文の語句・構文や意味内容についてのはっきりと誤った解釈に由来するものであり、「良くない訳文」とは明確に異なります。正確であるが解釈できない文を思い出して下さい……それは良くない訳文ではありますが、決して誤訳ではありません。「library という語をライブラリーとせずに図書館と訳しているから誤訳である」という見方はできるでしょう。が、それはマジックのカード・テキストであるという主観的選択が入ったものであるので、誤訳とはことなります。それは単に良くない訳文であり、「悪訳」と言えます。

誤訳が原文の誤った解釈に寄るものであることに対し、悪訳とは解釈そのものは正しいが、訳文を通して内容の正しい理解に到達することが困難なものです。「あなたの維持の初めに、目標相手は~」とあっても、正しい理解に到達するためには 維持→ upkeep → アップキープ といったような変換を読者の頭の中で行う必要があります。これは底意地の悪い例であったとしても、以下の文は正しく理解されづらかったことは記憶に新しいでしょう。

 「このターンにダメージを与えたクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。」

つまるところ、誤訳とは解釈の誤りであり、悪訳とは表現の欠陥であるといえます。


*訳出レベルを上げるには

翻訳をよりよくするためにはどうすればよいでしょうか?

おそらく多くの本がこれについて書かれているとおもいますが、私の経験から言うと、「とにかく量をこなす」ことに尽きます。

誤訳を避けるには、解釈の誤りを防ぐことが必要なので、原文(=英語)に触れる機会を多くし、辞書を活用する回数を増やせば良いでしょう。幸い、マジックに関する文章のみで言えば、さほど複雑な表現は使われていません。どちらかというと文語表現よりはより口語表現(=米語表現というべきでしょうか)が使われていることが多く、単語やイディオムで分からない場合は、大抵〈米俗〉という凡例がついていたりします。

悪訳を避けるには、文章表現を見直すことが必要です。訳文を一度読み直してみて、意味が少なくとも通っているかどうかを確認するべきでしょう。無駄に繰り返し表現をしていませんか? 文節を繋げていった結果、異常なほど長い文章になっていませんか? やけにスラングが混じっていたりしませんか? 口語体と文語体が混じっていたりしませんか? このあたりを直せば、悪訳を避けるのに役立つでしょう。


*最後に

訳出の際にいつも使っているサイトを挙げておきます。

英辞郎 on the Web http://www.alc.co.jp/

Weblio類語辞典 http://thesaurus.weblio.jp/
 同じサイトの辞書もよく使います。

thesaurus.com http://thesaurus.com/
 日本語でピンと来なかった場合はこっちへ。単語の類語を調べることによってその単語がどのような意味を持つのかを把握します。

urbandictionary http://www.urbandictionary.com/
 よくわからない表現や、なんでもない単語なのに直訳して疑問点がでてきたらここに当たります。
 ていうかここに載っている表現は大抵キワモノ。わかるかそんなもーん。


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DN上、もしくは他のサイト上で記事の翻訳を載せている方々にエールを送ります。
全部は追いきれませんが、ちまちま読んでますよー。

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「とにかく引用して恥をかかないだけの翻訳でありたい」中島健蔵


コメント

nophoto
ねこ
2013年1月17日16:11

いつも勉強にさせてもらっています。
僕もGTCのプレビューに一喜一憂してる方ですが、誤訳の多さが目立ち大変残念に感じていますです(確かにsecretには感動しましたが)。
なので、英語版を購入することにしていますが、すべての邦訳が正確である日が来ることを祈っています。

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