諸君 私はアーティファクトが好きだ
諸君 私はアーティファクトが大好きだ
各種《Mox》が好きだ
《三なる宝球/Trinisphere》が好きだ
《巨大戦車/Juggernaut》が好きだ
《精神隷属器/Mindslaver》が好きだ
《虚空の杯/Chalice of the Void》が好きだ
《からみつく鉄線/Tangle Wire》が好きだ
《銀のゴーレム、カーン/Karn, Silver Golem》が好きだ
《金属細工師/Metalworker》が好きだ
《カルドーサの鍛冶場主/Kuldotha Forgemaster》が好きだ
スタンダードで エクステンデッドで
レガシーで ヴィンテージで
各種フォーマットでプレイされるありとあらゆるアーティファクトが大好きだ
《Mishra’s Workshop》や《裏切り者の都/City of Traitors》からのマナカーブが好きだ
1ターン目に《金属細工師/Metalworker》を唱えた時などは心がおどる
Sootカウンターが乗っている《煙突/Smokestack》が好きだ
被覆を持っているパーマネントが墓地に置かれたときは胸がすくような気持ちだった
《磁石のゴーレム/Lodestone Golem》が攻撃してダメージを与えるのが好きだ
手札の除去呪文を唱えるべきマナが足りず、渋々ライフを減らしていく様など感動すら覚える
《破滅的な行為/Pernicious Deed》に滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に展開したカードが1枚で全て吹っ飛ぶ様はとてもとても悲しいものだ
ZooやFish系に殲滅されるのが好きだ
《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》に悩まされ、賛美でダメージが追加されるのは屈辱の極みだ
諸君 私はアーティファクトを地獄の様な能力を持つアーティファクトを望んでいる
諸君 私に付き従う茶色の時代を知っている諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なるアーティファクト・デッキを望むか?
情け容赦のない《相殺/Counterbalance》でこちらの呪文が尽く打ち消されるようなデッキを望むか?
あらん限りのシングルカードを尽くし読めもしないメタゲームのために毎回死ぬほどデッキに悩むような状態を望むか?
『無色! アーティファクト! ぶっぱ!』
よろしい ならばMUDだ
アーティファクトを中心に据えたデッキは数多くありますが、それらの中にMUDというデッキタイプがあります。定義は《金属細工師/Metalworker》を入れて高速で展開するデッキ、だそうですが、ほぼ茶単のデッキもこう呼称されることも多いです。
PTQ名古屋~GP神戸のExtendedシーズンの間に、おいらが組み上げていたデッキはMUDの要素が入った《カルドーサの鍛冶場主/Kuldotha Forgemaster》デッキでした。これを組み上げる際には、ヴィンテージ、レガシー、スタンダードの良いところをそれぞれ切り取ってきて構築を行ったという背景があります。
そこで今回は、MUDの歴史とアーティファクトを中心に据えたデッキのお話。
なお、このデッキは『強い』デッキではありません。故にこの記事はspike向きではなく、すごくjohnny向きで、解説もその方向に向いていることをお赦しください。
*MUDの由来
時は2002年。
Arthur Tindemans 、Koen van der Hulst という2人のヴィンテージプレイヤーが休日に集まり、
デッキの調整を行っていました。折しも環境は《破滅的な行為/Pernicious Deed》や《火薬樽/Powder Keg》等が流行り始め、どのデッキもクリーチャー以外の対処を考え始めたところでした。
そんな二人はデッキを取り出し、お互いにこう言ったそうです。
『『おれの "アーティファクト・デッキ" で、ふるぼっこにしてやんよ!』』
そして互いに顔を見合わせ、
『『おまえ本気か?』』
このやりとりを行ったあと、二人は互いのデッキを見せ合い、調整を重ねました。Artherのデッキは《吠えたける鉱山》や《生体融合帽/Grafted Skullcap》のドロー補助と《冬の宝珠/Winter Orb》で相手の行動を制限し、最後は《銀のゴーレム、カーン/Karn, Silver Golem》で倒すデッキでした。対してKoenのデッキは赤を混ぜて《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》を入れ、《からみつく鉄線/Tangle Wire》と《煙突/Smokestack》で相手を縛り、最後は《道化の帽子/Jester’s Cap》で相手のライブラリー切れを狙う、というものでした。
2人はすぐお互いのデッキの持つ問題を見つけ、それに対処すべく、重要なカードを選別し、要らないカードを抜いて、2人のデッキを融合させていきました。
さてこのデッキをどう呼ぼうか、という段になって、二人は意見を出し合いました。
"The Collection" や "The Artifact Menace" 等の名前が出されましたが、当時は既に
・Stax (ご存知《煙突/Smokestack》と《からみつく鉄線》を使用してマナを縛るデッキ)
・TnT ("Tools ’n’ Tubbies" 《Mishra’s Workshop》からの《巨大戦車/Juggernaut》や《Su-chi》を早期に展開するビートダウン。"5/3" とも呼ばれる)
といった、短い呼称のデッキがありました。そこで単純で短い呼称として、前述のやりとりを思い出したArtherは、お互いのデッキがそもそもまともじゃない("Muddy this and Muddy that")ことを告げてから、
「なあ Koen、"Mud" っていうのはどうかな?」
Mud’s Decklist - Vintage
Main
4 《Mishra’s Workshop》
4 《裏切り者の都/City of Traitors》
4 《不毛の大地/Wasteland》
3 《石化した原野/Petrified Field》
1 《露天鉱床/Strip Mine》
1 《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
4 《金属細工師/Metalworker》
3 《銀のゴーレム、カーン/Karn, Silver Golem》
4 《抵抗の宝球/Sphere of Resistance》
4 《火薬樽/Powder Keg》
3 《冬の宝珠/Winter Orb》
3 《罠の橋/Ensnaring Bridge》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《煙突/Smokestack》
4 《生体融合帽/Grafted Skullcap》
1 《記憶の壺/Memory Jar》
1 《Black Lotus》
5 Moxen (モックス5種類のこと)
1 《魔力の櫃/Mana Vault》
1 《Mana Crypt》
1 《Sol Ring》
http://deckstats.net/deck-623946-eb7c7e83577505ece887a7e50a6d5036-en.html
以来、このデッキは"MUD"と呼ばれるようになりました。
*ヴィンテージでの変遷
ヴィンテージ構築では、前述のStaxやTnTがあったために、MUDは地味な存在でした。しかし、《金属細工師/Metalworker》の採用は眼を引き、以後は「高速でマナを展開する」方向性にシフトしたMUDと、「色を混ぜてアドバンテージを取る」方に分化します。
色を混ぜるのに真っ先に考え出されたのが、TnTにも採用されていた《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》の赤と、ヴィンテージではトップ色の青です。そこで相手を妨害しつつ、メインフェイズにマナの出る《Mana Drain》が採用され、再利用するアーティファクトも厳選されていきました。Control Slaver の誕生です。
やがてControl Slaverは黒が足されて、《闇の腹心/Dark Confidant》を入れてアドバンテージをたたき出すデッキや、《けちな贈り物/Gifts Ungiven》でコンボパーツを持ってくるという、いかにして「ずっと俺のターン!」状態にもっていくかを競うようになりました。
Control Slaver - 2007/01/21
2 《島/Island》
1 《冠雪の島/Snow-Covered Island》
2 《溢れかえる岸辺/Flooded Strand》
2 《汚染された三角州/Polluted Delta》
1 《露天鉱床/Strip Mine》
1 《ダークスティールの城塞/Darksteel Citadel》
2 《Underground Sea》
3 《Volcanic Island》
1 《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
1 《Black Lotus》
1 《世界のるつぼ/Crucible of Worlds》
1 《Mana Crypt》
1 《魔力の櫃/Mana Vault》
5 Moxen
1 《Sol Ring》
1 《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
3 《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》
1 《Gorilla Shaman》
1 《映し身人形/Duplicant》
1 《隔離するタイタン/Sundering Titan》
1 《Ancestral Recall》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
1 《蒸気の連鎖/Chain of Vapor》
1 《残響する真実/Echoing Truth》
4 《Force of Will》
1 《けちな贈り物/Gifts Ungiven》
4 《Mana Drain》
1 《神秘の教示者/Mystical Tutor》
4 《知識の渇望/Thirst for Knowledge》
1 《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
1 《燃え立つ願い/Burning Wish》
1 《Demonic Tutor》
1 《Time Walk》
1 《修繕/Tinker》
1 《ヨーグモスの意志/Yawgmoth’s Will》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
http://deckstats.net/deck-623955-05d7a4ce9c80d2e93342cd866cf89baa-en.html
近年では「ずっと俺のターン!」を実行するために、さらに効率のよいコンボ(《Time Vault》+《通電式キー/Voltaic Key》)がオラクルテキストの修正によって導入されたので、Control Slaverというデッキタイプは姿を見せなくなりました。
打ち消しも《Mana Drain》ではなく、《呪文貫き/Spell Pierce》が中心となっているので、上記のような4《Mana Drain》+4《Force of Will》といった構成はもはや過去のものとなっています。
《Time Vault》+《通電式キー/Voltaic Key》のコンボは簡単かつ致命的で、デッキに2枚放りこめば完成してしまうので、他のデッキとのハイブリッド化が進んでいます。サーチ手段+アンタップを持つ《求道者テゼレット/Tezzeret the Seeker》は、この2枚に加えてよく入れられていましたが、現在では単に1枚で勝てる《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》に取って変わられています。ただ、"Vault-Key"というデッキタイプは、今なお続いています。
*MUDの復権
MUDの話に戻りましょう。2011年1月、海外でのヴィンテージ大会で上位に入賞したデッキにMUDがありました。元々海外ではMUDが根強く残っていたのですが、国内ではコントロール傾向が強く、若干数存在するFish系に勝てないこともあり、MUDは不人気でした。しかし、ミラディンの傷跡のカードが環境を変えることになります。
MUD by Fabian Moyschewitz 2011-01-02
4 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
2 《裏切り者の都/City of Traitors》
2 《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
4 《Mishra’s Workshop》
1 《露天鉱床/Strip Mine》
4 《不毛の大地/Wasteland》
1 《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
1 《Black Lotus》
1 《Mana Crypt》
1 《魔力の櫃/Mana Vault》
5 Moxen
1 《Sol Ring》
4 《磁石のゴーレム/Lodestone Golem》
4 《金属細工師/Metalworker》
4 《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》
1 《トリスケリオン/Triskelion》
2 《銀のゴーレム、カーン/Karn, Silver Golem》
4 《虚空の杯/Chalice of the Void》
4 《抵抗の宝球/Sphere of Resistance》
4 《アメジストのとげ/Thorn of Amethyst》
2 《彫り込み鋼/Sculpting Steel》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
http://deckstats.net/deck-623969-ceac1bf9d327e354c344ac2d10a296e6-en.html
環境を変えたのは《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》でした。
でかい、飛んでいる、そして通ればタダで相手の《Mox》が破壊できる、といいことずくめです。その他のカードは《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》を守るためのカードしか入っていません。支払うコストを重たくさせるカードは実に12枚投入されています。《金属細工師/Metalworker》が出れば大量にマナが引き出せるので、1,2ターン目の《金属細工師/Metalworker》をどうするかは相手の悩みどころとなるでしょう。
*レガシーでのMUD
さて一方レガシーでは、MUDはお通夜状態でした。なぜなら、《金属細工師/Metalworker》は早々に禁止カードに指定され、頼みのマナ・アーティファクトや土地も軒並み禁止。まともなマナの出る土地は《裏切り者の都/City of Traitors》と《古えの墳墓/Ancient Tomb》のみという状態でした。
それでも茶単という響きが人心をくすぐるのでしょうか、アーティファクトのみのデッキを構築する猛者は存在しました。MUDは構築不可能、TnTはクリーチャー対処の激しいレガシーでは不利、となれば残されたアーキタイプはStaxのみでした。これは後に白StaxやTrinistaxへと発展します。
Trinistax by Brian Peters 2009-10-11
5 《平地/Plains》
4 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
3 《裏切り者の都/City of Traitors》
1 《地平線の梢/Horizon Canopy》
2 《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
1 《遊牧の民の競技場/Nomad Stadium》
1 《Savannah》
4 《不毛の大地/Wasteland》
3 《トロウケアの敷石/Flagstones of Trokair》
1 《コーの安息所/Kor Haven》
2 《悪斬の天使/Baneslayer Angel》
3 《幕屋の大魔術師/Magus of the Tabernacle》
4 《虚空の杯/Chalice of the Void》
4 《世界のるつぼ/Crucible of Worlds》
4 《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》
4 《煙突/Smokestack》
3 《三なる宝球/Trinisphere》
4 《亡霊の牢獄/Ghostly Prison》
3 《忘却の輪/Oblivion Ring》
4 《ハルマゲドン/Armageddon》
http://deckstats.net/deck-623973-bfac6260692a95800ed20f472b1472eb-en.html
*禁止解除!
さて、そんな感じでレガシーのアーティファクト単は至高の大道芸でしたが、2009年10月に《金属細工師/Metalworker》が禁止解除、そして2010年7月に《厳かなモノリス/Grim Monolith》が解禁されると、ようやくMUDを組める環境が整いました。
ヴィンテージとレガシーのMUDの一番大きな差は《Mishra’s Workshop》が無いことです。このため、色を加えることに抵抗は薄くなりましたが、加えることによるメリットがより多い色を選ぶ必要が出てきました。ほとんどの場合はドロー補助+妨害という意味で青でしたが、後に赤色にシフトしていきました。つまり、「色を混ぜた」WelderMUDの形に近づいていったのです。そして、ミラディンの傷跡の発売により、レガシーのMUDは息を吹き返します。
Forgemaster Combo by Michael Bomholt 2011-02-06
4 《大焼炉/Great Furnace》
4 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
4 《裏切り者の都/City of Traitors》
4 《不毛の大地/Wasteland》
4 《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》
4 《金属細工師/Metalworker》
4 《磁石のゴーレム/Lodestone Golem》
4 《カルドーサの鍛冶場主/Kuldotha Forgemaster》
4 《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine》
1 《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》
2 《マイアの戦闘球/Myr Battlesphere》
1 《隔離するタイタン/Sundering Titan》
3 《オパールのモックス/Mox Opal》
3 《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
2 《稲妻のすね当て/Lightning Greaves》
2 《世界のるつぼ/Crucible of Worlds》
2 《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
http://deckstats.net/deck-623984-304d474e27b5f7ed4aadef04087abb9c-en.html
《カルドーサの鍛冶場主/Kuldotha Forgemaster》は無色の《修繕/Tinker》です。《修繕/Tinker》の強さは折り紙付きで、それを支えるために大量のアーティファクトとマナ、そして《稲妻のすね当て/Lightning Greaves》が準備されています。
このデッキについては、作者である Michael Bomholt 氏が記事としてWebに載っけています。
日本語訳はrainさんがされているので読んでみることをおすすめします。
翻訳:Slinging MUD: 2nd place at SCG: Indy By Michael Bomholt
http://77832.diarynote.jp/201102170131581586/
*ミラディンの傷跡とミラディン包囲戦
ミラディンの傷跡ブロックはあと一つ、新たなるファイレクシアがあるのですが、すでに発売されている2つのエキスパンションだけでも、アーティファクトに新たなる可能性を示してくれました。
明日はスタンダードでのアーティファクトがメインになっているデッキと、全てを包括したバージョンのExtended-MUDをお話しします。
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